
ごみは、その人の生活や、歩んできた道程を象徴するものです。都内にある便利屋「T」の経営者で、長年ごみ屋敷の片付けや、ごみ回収を請け負い、「ごみ」を通じてさまざまな人間模様を見つめてきたF氏にインタビューを敢行。これまでに目撃した驚愕のごみ屋敷事情や、変わり種のごみについて語ってもらいました。
この記事で分かること
ペットボトル2,000本、空き缶3,000個
驚くべき量のごみ、ごみ、ごみ
—数ある便利屋さんの業務のなかでも、「ごみ屋敷の片付け」は一番ヘビーなイメージがあります。
F氏
そうかもしれませんね。
ごみ屋敷の片付けの依頼があった場合、3~5人体制であたるんですが、とりあえず、体が丈夫な人間じゃないと務まらないです(笑)。
ゴミ屋敷は埃もダニもカビもすごいし、大量のゴキブリはもちろんのこと、見たことのない種類の虫と対峙しなきゃいけないこともあります。アレルギー体質の人間には絶対に無理です。
—これまで目撃した「これはスゴい」という例を教えていただけますか。
F氏
まず、ごみ屋敷のごみの定番である、ペットボトルと空き缶。一番多かったもので、2LDKの一軒家でペットボトルが約2,000本、空き缶がおよそ3,000個という例がありました。
ペットボトルや缶の中の飲み残しは出さなければならないのですが、集めてみたらバケツ10杯分ありました。しかもドロドロに腐っているし、腐臭がすごい。ごみの堆肥が積もりに積もって……というのはよくある話なんですが、極端な例だと、天井との差がわずか10センチなんていうケースもありましたね。その中をネズミが走り回っていたりします。
ごみ屋敷の住人は、食べ残しや卵の殻なんかもそのまま平気でポイポイ部屋の中に放ってしまいますから、ゴキブリやネズミにとっては餌も寝床も無限にある、ある種「天国」なわけです。やっとこさ、ごみの山を取っ払ったら、埋もれていた座布団が顔を出し、めくってみたら湿気を含んだ畳との間に、びっしりときのこが生えていた……なんていうことも日常茶飯事です。
—すさまじいですね……。
F氏
こんなのは序の口ですよ。人が死んでいないだけマシです。ごみに埋もれて孤独死した高齢者の家を片付けてほしいと、遺族の方から依頼を受けることがあります。ご遺体に湧いた大量の蛆虫が羽化して蠅が窓をびっしりと埋め尽くしていたことも。あと、なぜか生前にご自身で髪の毛を切っては台所のシンクに溜め込んでいたようで、あの光景はかなりホラーでした。ゴキブリその他の害虫の駆除にはバルサンを使いたいところなんですが、マンションなどの集合住宅の場合、バルサンを炊くと無数のゴキブリが逃げ出して他の世帯に移動して迷惑がかかってしまうので、できないんです。だから、コンバットのような「食いつきタイプ」の駆除剤を大量に購入してばらまくという方法をとっています。ごみを片付けている間、無数のゴキブリが視界の隅でうごめいていますが、そんなことを気にしては作業が進まない。もう慣れっこになってしまいました(笑)。
気がづいたらいつの間にかごみ屋敷になってた
—具体的に、片付けはどんな手順で進んでいくんでしょうか。
F氏
それはもう単純な話です。延々、単純作業でひたすらごみを袋詰めしていく。
通帳や証書などの貴重品以外は全部ごみ。空き缶など金属のものと、燃えるごみを分別して。
最終的なごみの量は、独り暮らしのワンルームでもだいたいごみ袋80袋以上はいきますね。この袋詰め作業を4時間~丸1日で終わらせます。
私ども便利屋の仕事はごみの搬出と処理だけなので、そのあと特殊清掃業者が入って清掃とオゾン脱臭などを行ないます。
—依頼者はどんな方が多いのでしょうか。
F氏
「明日、ガスの点検が入ることになったから、今日中に片付けないと間に合わない」「両親が来ることになったから急いで片付けたい」というような、急を要する依頼が多いです。男女比は、女性のほうが若干多いですね。
最近増えているのは独居老人のごみ屋敷化。「久しぶりに帰ったら実家がごみ屋敷になっていた」という家族の方からの依頼も多いです。
また、働くシングルマザーと小・中学生の子どもたちのいるご家庭で、お母さんが忙しすぎて片付けができなくなり、子どもたちにも「片付けられない症候群」が連鎖、気がついたらいつの間にかごみ屋敷になっていたというケースもありました。
それから近隣の方にバレたくないので、ごみの搬出を段ボールに入れて行なうケースや、深夜にひっそり静かに片付けるという「夜逃げ」ならぬ「夜片付け」の依頼が増えてきています。
30代40代のいい大人の男性が、年老いた両親の年金から仕送りを受けながら、独りごみ屋敷に引きこもっているというケースも多く、現代社会の闇を感じざるを得ません。
—料金はだいたいどのぐらいなんでしょうか。
F氏
部屋の広さとごみの量で開きがありますが、およそ10万円から60万円ぐらいが相場です。
ごみの量が1tトラック1台ぶんあたり10万円~15万円くらい、2tトラック1台ぶんで20万円~30万円くらいです。
たまに、異常に価格設定の低い、「安さ自慢」を謳っている業者がありますが、相場よりも大幅に安い業者は避けたほうが安全です。
作業を途中で投げ出したり、ごみの処理を不法投棄でまかなっていたため警察沙汰になったり、個人情報の流出、後になってどんどん料金を追加請求してきたりなどのトラブルが相次いでいます。業者選びはぜひ慎重に行なってください。
優良な業者を見分けるには、「適正な料金設定か」のほかに、国からの認可証があるか、損害賠償制度があるかなども重要な判断基準になってきます。
ファイル1,000冊の整理は気の遠くなる作業
—ごみ屋敷以外で「量的にすさまじかった」という例がありましたら、教えてください。
F氏
「大量の○○を片付けてほしい」という依頼は多いです。ラジオを100機処分とか、ドアノブのみ500個集めていた方とか。いったい何に使うんでしょうね。
セトモノの狸を200体ぐらい集めていた方から「全部処分してください」という珍しい依頼もありました。狸が200体並んでいる絵面なんて、めったに観られなので、思わず写メに収めて。今スマホの待ち受けにしています(笑)。
とある大学教授の方が仕事部屋として借りていたマンションで、本と書類を処分したいという依頼も予想外に大変でした。
見積もりのため、どのくらいの量があるのかを見に行ったところ、二層スライド式の本棚6個分をすべて処分したいとのことでしたが、作業員2名でせいぜい2時間もあれば搬出までできると見積もったんです。
しかし、いざ取りかかってみると、ファイルに挟まれた書類がおよそ1,000冊ほど出てきました。ひと言に1,000冊と言っても想像できないかもしれませんが、この量は尋常じゃないですよ。
これを古紙としてリサイクルに回すには、全部ファイルの金具とプラスチックの部品を取り外して、紙を分別しなければならない。結局2時間どころかほぼ1日かかってしまいました。機械になった気持ちで黙々と作業しました。
ホント、この仕事は不測の事態だらけです。
—他にもありますか?
F氏
猫を30匹以上飼っていたおばあさんが亡くなって、その家の片付けを依頼された時は大変でした。いわゆる「多頭飼育崩壊」というやつです。猫たちは一旦保護団体が引き取って里親を探しました。
私どもはご家族の依頼で、誰もいなくなった後の家の片付けを引き受けたのですが、最終的に猫の糞尿が垂れ流しになっていた家の中は凄まじい状態で、アンモニアが目に沁みるほどでした。
—中には危険を伴う作業も多いのでは?
F氏
一軒家の外壁にびっしりと生えた蔦(つた)を、すべて処理してほしいという依頼は、なかなか骨が折れました。甲子園球場みたいに本当に外壁一面にびっしりと生えているんですよ。はしごに登って、地道に一葉ずつ手作業で外していくんです。真夏だったので暑くて暑くて、死ぬかと思いました。
女装グッズに上履き100足……
世の中にはいろんな人がいます
—変わり種のごみ、ちょっと面白いごみのエピソードがあったら教えてください。
F氏
「オネエ」というわけじゃなくて、ごく普通の男の人で、女装を趣味にしている方っていますよね。ご家族に内緒で女装のために借りていた部屋を引き払うというので、荷物の処分を依頼されたことがありました。女性もののドレスやスーツが100着以上。ハイヒールが50足ぐらい。化粧品やランジェリー、ストッキングやタイツなど、とにかく女装のためのグッズ一式まとめて処分したいと。もしかしたら奥さんにバレちゃったんでしょうかね。
—いろんな趣味の方がいますからね。
F氏
いわゆる「フェチ」「コレクター」の方からの依頼も多いです。
そうそう、小学生女児が履くような上履き100足以上を処理したこともありましたよ。マネキン50体とか、VHSのエロビデオ1,000本以上というのもありました。
事情はわかりませんが、「全部捨てる」ということは要するに「足を洗う」ということなんでしょう。いろんな方の「人生のターニングポイント」に立ち会うという意味では、なんだか感慨深いものがありますね。
あと、数としては1体ですけれど、ビックリしたのはやっぱり「ラブドール」の処分ですね。あれはそのまま家庭ごみとして捨てたりしたら、殺人事件だと勘違いされて大問題になりますから。かといって細かく切断して捨てても大騒ぎになる。
なので、たいていのメーカーは不要になったラブドールの下取りをしているはずなんですが、そこに頼むのも恥ずかしかったんでしょうか。
興味がわいたのでちょっと調べてみたら、中古のラブドールの「里子・里親」の斡旋なんていう制度もあるようですね。
世の中にはいろんな人がいます。そんな人間模様を垣間みられるのもこの仕事の醍醐味ですね。
—かなり無茶な依頼も多そうです。「断る」という選択肢はないんですか?
F氏
基本的には断らないです。登山家の「そこに山があるから」じゃないですけれど、そこにごみがある限り(笑)、私どもはどこにでも赴きます。
以上、都内にある便利屋「T」の経営者F氏へのインタビューでした。
モノを捨てるという決断はある種、人生のターニングポイントとも言えるのですね。ごみにはその人の人生が現れる。なかなか、興味深いお話しでした。
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