ごみ集積場にまだ使えそうなモノが捨てられていたらどうします?勝手にもらってもいいのでしょうか?もしかして窃盗罪になる?捨てたごみの所有権は誰にあるのか、気になるところです。ごみとして出されたモノの所有権と持ち帰りについて調べました。
この記事で分かること
モノは捨てた時点で持ち主の所有権がなくなる
自治体が回収する「燃えないごみ(不燃物)」の中には、まだ使えそうなモノがごみとして出されている場合があります。集積所に出されたごみで、ほしいモノがあれば持ち帰ってもいいのでしょうか?まずごみの所有権について見てみましょう。
ごみの所有権
ごみは誰のものなのか?これは法律では次のように2つの解釈があります。
- 無主物(所有者のないもの)
- 廃棄物処理業者に譲渡するまで一時的に占有を離れているだけであり、無主物ではない
(1)の無主物とは、所有者がいないもののことです。例えば、道に落ちている空き缶やタバコの吸い殻には持ち主がいません。よって誰が処分しても問題がないと考えられます。しかし(2)の解釈によるとごみの集積所に出されたごみは回収業者が来るまでは一時的に占有を離れている、つまりごみを出した人の手を離れているだけで無主物ではないということになります。
民法ではどうなっているか?
第 239 条には「無主物の帰属」について定められています。それによると、
第 239 条第1項……所有者のない動産は所有の意思を持って占有することによって、その所有権を取得する
となっています。つまり、捨ててあるモノには所有権はなく、持ち帰った人の物になる(所有権を持つ)ということです。
なお所有権を取得する場合は誰かから譲り受ける「承継取得」とそれ以外の「原始取得」がありますが、捨ててあるごみを拾ったり、持ち帰ったりするのは「原始取得」に当たります。さらにごみ集積所に捨ててあるごみは「所有者のない動産」に当たるため、所有の意思を持って占有(持ち帰る)することで所有権を取得するということになります。
ごみの持ち去りは罪になる?ならない?
ごみ集積所に出されたごみを持ち帰った場合は罪に問われるのでしょうか?上記の第 239 条第1項では捨ててあるごみには所有権がなく、別の人が持ち帰ったとしても窃盗罪には問われないということになります。
国民生活センターでも「ごみ集積所に出した時点で出した人はその所有権を放棄したことになります。よってごみを持ち帰ったとしても窃盗罪は成立しないと考えられる」としています。
回収した資源ごみが自治体の財源になる場合
ただ、問題は資源ごみを自治体の財源にしている場合です。
自治体によっては住民が回収日に出した古紙やアルミ缶などを売却して財源に充てています。そのときも罪に問われないでしょうか?
世田谷区の例
東京都世田谷区では「世田谷区清掃・リサイクル条例」を定め、区内の数十業者でつくる組合の加盟業者以外のものが古紙を無断で持ち去ることを禁止しています。対象となるのは区が定める集積所で、20万円以下の罰金が科されます。
しかし、あるとき、世田谷区で指定されていない個人の回収業者が古紙を持ち帰ったために区が条例違反として訴えました。一審では「集積場所がはっきり明記されていない」という理由で被告人は無罪となりますが、その後東京高裁では逆転し有罪となって被告人(ごみ回収業者)に対して罰金20万円が科されました。
この場合、区のごみ集積所に出されたごみは「無主物」ではなく、出された時点で所有権が区に移転したものと判断されています。
各地の取り組み
各地の自治体では条例の制定や見直しの動きが進んでいますが、世田谷区の例から「ごみ集積場所を明確にする必要がある」とわかり、各地では「ごみ集積所」と明記したり、「持ち去り禁止」の張り紙をしたりといった対策を取っています。
ごみの持ち去りが罪になるケース
世田谷区のように条例違反に問われるケースのほかに、次のような罪に問われる場合があります。
軽犯罪法違反 | ごみ集積所がマンションの敷地内などで「関係者以外立ち入り禁止」となっている場合、そこに勝手に入ってごみを持ち去るのは「軽犯罪法第1条第1項第32号」(入ることを禁じた場所に正当な理由がなく入った罪)に問われる可能性があります。ごみの持ち去りに悩む場合は「関係者以外立ち入り禁止」としておくといいでしょう。 |
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威力業務妨害罪 | 自治体は住民が出したごみを適正に収集運搬する責務があります。住民が出したごみを勝手に持ち去ることはその責務を妨害したとみなされ、威力業務妨害罪に問われる可能性があります。 |
窃盗罪 | 「持ち去り禁止」と書いてあるものを無断で持ち去ると「窃盗罪」に問われる可能性があります。 |
今後は罰則が厳しくなる可能性も
福岡市では収集した不燃ごみからアルミ缶と鉄を分別し、売却しています。その売却益は年間1.5億円~3億円にのぼります。そこで条例化に向けてさまざまな角度から検討を行っています。
ほかの自治体でもごみの持去りに関しては今後厳しくなると考えられます。むやみにごみを持ち帰らないように注意しましょう。
持ち帰ったごみにお金が入っていた場合
ごみを出しに行ったらきれいなバッグがあったので、「どうせいらないから捨てたのだろう」と持ち帰ったところ中から現金が出てきた……というケースがあります。
産業廃棄物の処理業者が回収したごみの中から大金が出てきたので警察に届け出たというニュースを耳にすることもあります。
この場合は持ち帰ったら罪になるのでしょうか?
遺失物横領の罪に問われる可能性がある
一般的にごみは所有権がない無主物とみなされるため、ごみとして出してあるバッグを持ち帰っても罪にはなりません。しかし、中に入っていた現金については、「ごみ」とはみなされません。
つまり、バッグ内の紙幣は捨てる意思がなかった(中に入れているのを忘れて捨ててしまった)と解釈されます。そのため、バッグの中の紙幣は「遺失物」として扱われます。遺失物法では遺失物を拾った人はすぐに警察に届け出る義務があります。届け出を怠ると「遺失物横領」に問われる可能性があります。
また、拾ったごみの中に子どもの成績表や借金の返済表などがあり、それを周囲に漏らすことは「名誉棄損」や「プライバシーの侵害」に当たる可能性があるので注意しましょう。
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